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どんびき!~曇天大学軽音楽部弾き語り部門~⑱

第18話「なんだかよく分からない関係性」

○国府涼子の視点

「ちょっと杉田くん! またうちの部長泣かせたでしょ――」
飛び込んだ部室に目当としていた自分勝手でお調子者の同級生はいなかった。その代わりに、部屋の中央のテーブル席からビューラーで睫を上げただけのナチュラルな目と、アイシャドーとマスカラでばっちり決めた目が私に向けられた。
「あ、ごめん、いないみたいだね」苦笑いしながらテーブル席の女の子2人にぺこぺこと頭を下げる。ファッション誌をテーブルの上に広げたまま、彼女たちも苦笑いを浮かべた。
「えっと、卓球部の方ですか?」2人のうち長い黒髪の方が言う「先輩たちは今日遅れてくるそうですよ」
「杉田先輩、またなんかやらかしたんじゃね」茶髪の方が露骨に溜め息を吐く。

なんとなく、そのままのお互い自己紹介をする流れになった。
彼女らは2年生で最近弾き語り部門に入部したらしい。変わり者の巣窟みたいな弾き語り部門に、まさかこんなかわいい女子が入部するとは――私は今後、地球と月の軌道が入れ替わるんじゃないかと一抹の不安を覚えた。

「うちのリーダーが迷惑かけてすみませんねぇ」茶髪の珠美ちゃんが言う。
麦茶とお菓子を出されてなし崩し的にしばし談笑する。
彼女たちの読んでいた雑誌が、私の購読しているものと同じだったため、今年の夏に流行るだろうと謳われているファッションアイテムに話題が集中する。

「おやおや、今日の弾き語り部門部室は花の甘い香りに包まれているね。泥臭いネズミたちはお休みかな?」

いつの間にか、部室の扉にもたれた軽音部部長が、金髪を掻きあげながら白い歯を見せて笑っていた。
うわぁ、めんどくさいのが来たな、と正直な感情を表情に出す。
見ると、ひまりちゃんや珠美ちゃんも似たような感情を内面に秘めた表情をしていた。
「国府涼子さん、お久しぶりですね」軽音部部長が私をちら見して鼻で笑う「ピンポン部の方は最近どうです? 大会で1回戦くらいは突破できるようになりました?」
明らかに悪意の篭った嘲笑だ。私が杉田くんやごっちん、それに加奈と仲良くしていたのを知っているから、自分にとって敵サイドの人間という認識なのだろう。その認識はあながち的外れではないけれど。
「また勧誘ですか?」珠美ちゃんが言う「何度誘われても、あたしらはここから抜ける気はないですよ」
「そうです、私達は弾き語り部門の一員なんです」俯いたひまりちゃんが、しかしはっきりとした口調で言う。
「やれやれ、こまった子猫ちゃん達だね。こんな日の射さない物影に身を潜めていたら、せっかくの綺麗な花も蕾のまま萎れてしまうよ」軽音部部長は颯爽とひまりちゃんの前に歩み寄ると、指先を彼女の顎にあてがい顔を上げさせた。
目を逸らす彼女の頬を、親指の腹で撫でる。おそらく自分のファンの女子によくやっている仕草なのだろう。
それを見た珠美ちゃんが椅子から立ち上がる「おいあんた――」
相手がファンの女子ならいい。でも信頼関係すらない女性の頬を無遠慮に撫でるのは、さすがにやりすぎだ。
杉田君たちが居ないから調子に乗っているのだろう。やれやれ、と私は思う。
少しお灸をすえた方がいいかもしれない。

○清里珠美の視点

いつも通り突然やってきた軽音部の部長は、性懲りもなく軽音楽への勧誘を始めた。
それだけだったらいつも通り適当にあしらおうと思っていたけれど、あいつは俯くひまりの顔を上げさせ、頬を撫でた。
ひまりの体が大きく震える。
今まで男性との接点がなかったひまりにとって、男に詰め寄られ頬を撫でられるのは嫌悪すら感じる行為に違いない。ましてや相手はあの軽音部部長だ。
恐怖する親友を見ていて冷静にいられるほど、あたしはクールな人間じゃない。
「おいあんた――」立ち上がって軽音部部長を睨みつける「いい加減にしとけよ」
「おお、こわいこわい」凄む私をあざ笑うように相手は言う「まぁ、君たちもいずれ後悔することになるよ。弾き語り部門に入部したせいで、大学を辞めてしまった女の子だっているんだ。俺は君たちに、そんな風になって欲しくないっていう親切心で――」

「だまらっしゃい」

気がつくと国府先輩が部室の隅に立っていた。
棚の上に置かれていた段ボール箱を開ける。
中から緑色の網を取り出した。あれは、卓球台につけるネット?
「加奈のこと何も知らないくせに、勝手な憶測でものを言わないで」国府先輩はさっきの卓球部部長の言葉に対しえらく腹を立てているようだった「はやく、ひまりちゃんから手を離しなさいよ」 
「かわいい子猫を撫でたくなるのは、人として当然の欲求だろ?」ああ、この男はなんでこんなに自己中なのだろうか。たぶんその容姿と才能で周りの女子から愛され続けてきたため、自分の行為が相手に拒絶されるなんて考えてもいないのだろう。

軽音部部長の右手が、ひまりの髪に触れる。

「やめてください」身を竦ませたひまりが言う。

「やめろよ」私が軽音部部長に向かって一歩踏み出す。

そんなあたしを追い抜いて、何かが軽音部部長に向かって突進した。

全ては一瞬の出来事だった。

気が付くと顔を緑のネットでぐるぐる巻きにされた軽音部部長と、ネットの端をドアノブにくくりつけている国府先輩がいた。
「な、な、なんだこれ」軽音部部長は状況を判断できないまま、顔にまきついた異物を取り除こうと悪戦苦闘しているが上手く剥がせないようだ。ネットの割れ目から肉が盛り上がり、鼻は上向きにひしゃげ、瞼は歪み、髪の毛はぼさぼさなその様は、コントか何かの舞台から逃げ出してきた芸人のようだった。
笑いを堪えきれず、あたしは噴出す。
国府先輩はそんな軽音部部長の正面に立つと、スマホで写真を一枚撮り、変な顔をしたお笑い芸人に見せる。
「これが俺の顔!? 美しくない! 全然美しくない!!」芸人は発狂する。
「この写真、卓球部の女子にラインで送っとくわ」
「やめろ!」軽音部部長はスマホを奪取しようと手を伸ばすが、ドアノブに括られたネットが邪魔で前に進めず、その手は虚しく空を切る。
「そういや、後輩に軽音部の女子と仲の良い子がいたっけ。その子に送ったら、軽音部内でも写真が広まるかもね」
「そ、それだけはやめて」もはや泣き声だ。
「これに懲りたら、この子達にちょっかい出すのはやめて」国府先輩は軽音部部長を横目で睨みつける「それと、卓球部なめんなよ」

国府先輩から後光が射しているようだった。

「かっこいい」あたしは呟いた。

○杉田三郎の視点

部室に入るとなんだかよく分からない空気が充満していた。
「お姉さま! お茶をもう一杯いかがですか」涼子をお姉さまと呼ぶタマ。
「いや、いいよ、もうお腹いっぱいだし」なんだか迷惑そうな涼子。
そして涼子に尊敬のまなざしをむけるひまちゃん。

「えっと、何があったんだ?」

置いてけぼりの俺は寂しく呟く。
どうやらまた、ややこしい人間関係が生れたらしい。
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プロフィール

幕田卓馬

Author:幕田卓馬
糖、脂質、プリン体、塩分などに気を配らないといけない歳になりました…若い頃の不摂生が原因でしょうか。まだ三十路、されど三十路!
そんな男が日々の合間に小説を書いています。

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