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どんびき!~曇天大学軽音楽部弾き語り部門~⑬

第13話「楽器店へ行こう」

僕と正方寺、それに金谷ひまりさんと清里珠美さんは吊革につかまりながら4人並んで車窓の外の流れる景色を眺めている。
『ギター始めるならメンテナンス道具も必要だろうし、楽器店に行って色々と買い揃えてやれよ。あ、ついでに俺のギターの弦も3セットほどお願い。安いのでいいから』堅あげポテトを片手に下されたリーダーの指示に従い、僕たち4人は繁華街の駅ビルの中にある島本楽器へと向かっていた。
土曜日ということもあり、電車は繁華街に近づくにつれ着飾った人々をどんどん飲み込んでいく。終着駅についた時それらは怒涛のように吐き出され、駅のホームを鮮やかな色合いで埋め尽くすのだろう。
それにしても、女の子と買い物に行くなんて初めての経験だ。
正直、僕は緊張していた。
そしてそれは正方寺も一緒だろう。こいつも見た目はイケメンなのに、心は僕と同じチェリーボイなのだから。
「あー、正方時くん見てえ! おっきな陸橋があるよう!」ちゃっかり正方寺の隣を陣取った清里珠美さんが、いかにも声を裏返してますよ、ってな具合の猫なで声で正方寺に媚びを売る。地元民のくせに今更『おっきな陸橋』もなにもないだろうに。
僕、正方寺、清里珠美さん、金谷ひまりさんの順で並びながら、僕は心の中で悪態をつきつつも『昼飯は何をチョイスすればいいのだろうか』と真剣に考えていた。正方寺と二人で出かけるときは牛丼屋かラーメン屋やコンビニおにぎりが定番になっていたが、そんなところに連れてった日には清里珠美さんに『これだから童貞は……』みたいな目で見られるに違いない。

僕の苦悩をよそに、電車は軋みを上げながら終着駅へと止まった。

「わーっ! ギターがいっぱいありますね!」金谷ひまりさんが感嘆の声を上げた。女性陣二人はピアノの楽譜を買いに楽器店に来たことは度々あるらしいが、ギターコーナーに赴くのは当然初めてのようだった。
「値段もピンキリなんだな」僕に対してはあくまで素の清里珠美さんが、ギターにつけられた値札を見ながら呟く。
「初心者用は1万円以内で買えるからね。そこそこのもので5~10万、本気でやる人だと10万以上のギターを使っているんじゃないかな」僕も浅い知識を総動員して彼女たちの質問に答える。
「あ、このギターは穴が開いてないね」と金谷ひまりさん。
「これはエレキギターだよ。あの真ん中のピックアップってところで音を拾ってアンプで出力するんだ。これはレスポールってタイプのギターだね。元々はギブソンの一部ギターの固有名詞なんだけど、他のギターメーカーも同様のモデルを出してるんだ。それはあくまでもレスポール『モデル』なんだけどね。五智先輩のギターもギブソンのギターだよ」
「あれは?」
「あれはテレキャスターだね。フェンダーの作った工業的エレキギターの先駆けみたいな存在だけど、今でも定番のギターの一つなんだ」
「てか、あのギター長くね?」と清里珠美さん。
「あれは普通のギターじゃなくてベースギターだよ。低音パートを刻むギターなんだ。ほら、弦が4本しかないでしょ?」
「あ、あのギター私のと同じ?」と再び金谷ひまりさん。
「うんそうだね、あれも金谷さんと同じYAMAHAのギターだね。YAMAHAはいいよね、安心感があって。あのギターは金谷さんのとちがってサウンドホールにピックアップがついているんだ。エレアコってやつだね。アンプを通して音が出せるんだ。いいよねー欲しいよねー」
「――平さぁ」清里珠美さんが眉を顰めて僕を見る「いきなり饒舌になって、なんかキモイ」
そりゃないんじゃないか、と僕は内心泣きたくなったが、顔に張り付けた笑顔は崩さない。

「お客様、もしよろしければ弾いてみますか?」

来た! と僕は身構える。
楽器店でギターを見ていると必ず発生する店員の『ちょっと弾いてみます』シチュエーション。そりゃ弾いてみたい。弾いてみたいが、楽器店の中でギターを鳴らすのにはものすごい度胸がいる。なぜなら楽器店に来ているほとんどのギタリストは『めちゃくちゃ上手い』からだ。そんな人たちがたむろしてる中で僕がショボいコード弾きなんてやらかしちゃったら、彼らも失笑を禁じ得ないこと請け合いだ。ものすごく恥ずかしい目に合う。だいたい試し弾きをしてる人たちなんてみんなどや顔で、どれだけ難しいギターソロが弾けるかを競い合っているように見える。これは僕の勝手な思い込みだけど、当たらずとも遠からずといったところだろう。
僕がまごついていると「あ、俺たち初心者なんで見るだけで十分満足です。お気遣いありがとうございます」と正方寺がにこやかに退けてくれた。ありがたい。

「とりあえず予備のギター弦を買っていこう。種類は色々あるけど、こんな風にセットになっているものがいいよ。弦の張替は基本まとめてやるべきだと僕は思うんだ。金谷さんのギターは今ライトゲージを付けているから同じのでいいんじゃないかな。押さえるのがきついようならもっと細いエクストラ・ライトもあるよ。あ、そっちの方がいいか、なるほど。それと練習用の弦はこのセット500円の安いやつでいいと思うよ。初めのうちは弦を切ったりも多いだろうから質より量だよ。あとは――ギターの指板の清掃用にこのスプレーを買っておくと便利だよ。練習後にこれをスプレーしてふいとけば弦のもちもよくなるし。あ、ボディ磨き用にこのオイルも買っとこうか。それと、このカポタストって道具も持っておいた方がいい。どんな時に使うかは後で教えるから。で、これは弦を替えるときにペグを回すやつ。これあると弦の張替えが格段に速くなる。それと、ここにピックがいっぱい置いてあるから、つかんだりしてみて手になじむやつを買っていくといいよ。あ、メインで使いそうなピックは複数枚買っておくのがお勧めだ。結構無くしやすいからね」

「――うわっ、やっぱりキモッ」清里珠美さんが呟く。
聞こえていたが、聞こえていないふりをした。

楽器店を出る頃には、僕はすっかりへばっていた。
久しぶりに人前であれだけの言葉をしゃべったのだから当然といえば当然だ。頭の中では常々独白を繰り広げている僕だが、実際にしゃべるとなると体力の消耗が半端ない。
これから彼女たちのご機嫌取りにオシャレでナウでヤングな飯屋を検索しなければいけないと思うと気が滅入る。
時刻はそろそろお昼を回ろうとしていた。

「じゃ、こっからはあたしたちが仕切りますか」
清里珠美さんの予想外の発言に僕は項垂れていた頭を上げた。
「え、仕切るってなに?」
「決まってんじゃん、昼飯だよ昼飯」清里珠美さんは『あんた馬鹿か』といった表情で僕を見る。そして急に猫なで声になり「正方寺君はどんなのが食べたい?」
「今日は二人に色々と手伝ってもらいましたから、お昼は私たちがお勧めの店を紹介しますよ。地元民なんで色んな店を知ってますから、任せてください」金谷ひまりさんはわざとらしく胸を反らせて自信満々の様子。
「俺は、何でもいいけど――」決めかねてそう返す正方寺。
「なら、あたしたちのよくいくパスタ屋をにしよっか」
「そだね! そうしよう!」
「ほら、正方寺くん、こっちこっち」先頭を切って歩き出す清里珠美さんと、その手に引っ張られ前のめりに歩き出す正方寺。その二人を追って駈け出そうとした僕の左手の袖を金谷ひまりさんがつかんだ。
「あのこれ、さっき楽器店で買った平君のピックです。今日は色々教えてもらえたから、そのお礼――」
「ひまりー早く来なよー」
「あ、うん! 平君も急ごう!」
 駈け出す金谷ひまりさんの後姿を茫然と眺める。
 小袋を透かして見ると、中に今流行りの某ゆるキャラの形をした使いづらそうなピックが数枚入っていた。おそらく演奏で使うことはないだろうけど、一生大事にします。
 3人を追って走り出した足は、やけに軽く感じられた。

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プロフィール

幕田卓馬

Author:幕田卓馬
糖、脂質、プリン体、塩分などに気を配らないといけない歳になりました…若い頃の不摂生が原因でしょうか。まだ三十路、されど三十路!
そんな男が日々の合間に小説を書いています。

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