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どんびき!~曇天大学軽音楽部弾き語り部門~⑫

第12話「彼女たちの事情」

「えっと、G」じゃーん
「C」じゃーん
「F…」ぱぱぱすっ
「あーもう、どうしてもFが弾けない!」ギターを抱えたまま腰かけていたベッドに倒れ込むひまり。あたし――清里珠美はベッドの上に置かれたギターのテキストを拾い上げて目を通す。
「親指は立てるんだってさ。あと指は心持ち側面で押さえるんだと」
「そんな事わかってるよぉ」ひまりは指を一本ずつ弦の上に乗せFコードの形を作る。腕に余計な力が入っているのは素人のあたしにもわかる。ピックが弦を弾くとアルデンテのパスタみたいな歯切れよい音がして、ひまりは牧場でお乳をねだる仔牛に似た声で「もー」と鳴いた。
ひまりの部屋はぬいぐるみやら少女漫画やらバカでかい抱き枕なんかで溢れている。でも無造作に散らかってるわけではなく、すべてが何かしらのテーマに沿って調和が取れているようにも感じる。そのテーマを言葉で表すなら「女の子」って単語がぴったりだろうか。
その部屋の中で異彩を放っているのが黒い電子ピアノだ。
ひまりんちはいわゆる「音楽一家」ってなやつで、家族全員が何らかの楽器を特技としている。そういう家庭の雰囲気ってのもあってひまりは幼いころからピアノを習っていた。小学校でひまりと仲良くなったあたしも、ひまりに影響されてピアノを習い始める。
今ではそこそこの腕前になったと思うけどやっぱりひまりには敵わない。
そんなひまりが今度はじいちゃんの形見のギターを弾き始めるっていうんだから、あたしは何となく「もったいない」ような気がしていた。あたしはひまりに追いつくため一生懸命ピアノを練習しているのに、遥か先を行くひまりはあたしがうらやむその技術を躊躇なく引き出しにしまい込んで、別の技術の習得を始める。
なんつーか、敵わねーなと思う。
「珠美ちゃん、私決めたよ」再びベッドに横になったひまりが天井を見つめている「私、弾き語り部に入って、ギターを教えてもらう」
「マジかよ」なんとなく予想はしてたが、あたしは呟く。
「だからお願い、珠美ちゃんも一緒に入って」ひまりが左手を、ベッドに寄りかかっているあたしの方へと伸ばす「一人じゃ心細くて」
「なんであたしまで――」そう言ったところで、弾き語り部のイケメンさんの顔がちらりと浮かんだ。あの人と同じ部に入るってのは、考えようによってはおいしい話なんじゃなかろうか。恋愛、友情、勉強、バイト、面倒くささ、色んなものを天秤にかけた結果、あたしの意思はほんの少しだけ「入部」の方に傾いた。
「まぁ、とりあえず一緒に部室までは行ってやるよ」そういって伸ばされたひまりの手を握る「てか、その体勢、人にものを頼む格好じゃなくね?」
ベッドから上体を起こし、ひまりはえへへと照れ笑いを浮かべた。

そんなこんなで今に至る。

「二年の金谷ひまりです。ギターを弾けるようになりたいです。初心者ですがよろしくお願いします!」
ガチガチに緊張したひまりの自己紹介を受けて、あたしも何だか自己紹介をしなきゃいけないような流れになる。
「二年の清里珠美、です。えっと、楽器は、ピアノがそこそこ弾けるかな。よろしく」横目でイケメンさんを見ると、彼は茫然とした様子であたしたちを見つめていた。
ていうか部員全員が、真夏の雪でも眺めるみたいに茫然としている。
なんだこれ。

「あ、え、あー」ポテチの袋を持った細目で長身の男が何か言おうとしている「えー、君ら、ここがどこかわかってる? 残念ながら軽音楽部ではないよ?」
「はい! 弾き語り部門ですよね! ドアのガムテープに書いてありました!」緊張のせいか無駄に威勢のいいひまり。
「え、あの、マジで入部すんの?」
「はい!」
「あ、あのー、えー」細目で長身の男は、眼鏡で特徴のない顔立ちの男を見る。どこかで見た顔なような気もするが、思い出せない「平ちゃん、なんかさっき知り合いっぽいこと呟いてなかった? なにこれ、どういうこと?」
「私、この前そちらの平さんにギターを直してもらいました!」ああ、この前ギターを直してくれた人か、あたしは人知れず納得する。
「先日、僕一人で部室にいた時に、彼女たちが来て、それでギターの弦を替えたんですけど、まさか、こんな展開になるとは――」
「お、おう」細目で長身の男はカクカクと頷いた「えっと、まぁ座りなよ」男――役回り的に部長だろうか――が促すと、部屋の中央に据えられたテーブルに座っていたイケメンさんと厳つい感じの男は無言で立ち上がった。
「とりあえず自己紹介、でいいのかね……俺は部長、ってか部門長の杉田三郎、三年」
「よろしくお願いします!」律儀に頭を下げるひまり。

そんな感じで、部員4人が口々に自己紹介を始める。
なんかもう、あたしも入部する流れだわこれ。

「えー、二人はどんな音楽をやりたい?」細目で長身の杉田先輩が尋ねる。正直あたしは最近の歌謡曲にあまり興味がない。ピアノ漬けだったあたしは音楽というとクラシックとかそういう路線が真っ先に思い浮かぶ。それは多分ひまりも同じだ。弾き語り部門に入部したはいいけど、音楽性の違いとやらで結局退部になるんじゃないの――そう思っていたあたしはひまりの言葉に耳を疑った。
「はい! にゃこ禅の曲をやりたいです!」
にゃこ禅? なんだそれ? あたしは頭がハテナマークだが、杉田先輩はそれで納得したようだった。
「ああ、あの最近流行りのギターとピアノの女性弾き語りデュオだっけ。最近CMとかでもよく見るよな。女子の友情を唄った歌とか」
「そうなんです!」ひまりは激しく頷いて、私を見るとにっこり笑った。
「ギターとピアノ、いいんじゃない」何がいいんだかわからないが、杉田先輩はそう言って頷く「んじゃまぁ、とりあえず一曲弾けるように練習してみるといいよ。ギターでわからないところあったら、この先輩が教えてくれるから」杉田先輩は厳つい男――五智先輩を指さす。

そんなこんなで、なし崩し的に弾き語り部門への入部が決まってしまった。
果たしてこの先どうなることやら。
イケメンの正方寺くんの存在だけが、唯一の救いだ。

「まあ、とりあえず、よろしく」今だ茫然自失といった様子の部員達が、杉田先輩の掛け声でペコペコとお辞儀をする。


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プロフィール

幕田卓馬

Author:幕田卓馬
糖、脂質、プリン体、塩分などに気を配らないといけない歳になりました…若い頃の不摂生が原因でしょうか。まだ三十路、されど三十路!
そんな男が日々の合間に小説を書いています。

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