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どんびき!~曇天大学軽音楽部弾き語り部門~31

第31話「うちの兄貴がこんなにリア充なわけがない」

うちの兄貴はネクラで小心者でギターオタクのダサメガネだ。
うちはそんな兄貴の事を軽蔑している。
宿を借りている兄貴のアパートから歩いて15分のところになるスーパーへ買出しに向かう途中、相変わらず貧相な兄貴の背中を眺めながら、うち――平和(たいらのどか)は思った。
今回、兄貴の通う曇天大学のオープンキャンパスに参加したのだって、別にこんな無名大学に入学を希望しているからってわけじゃない。ただ何となく、旅行みたいな感覚で知らない街を歩いてみたいと思っただけだ。
今日一日、一人で知らない街を歩き回り撮った写真で、うちのスマホのフォルダは一杯になっている。高校の友達のグループトークにアップしたら、早速数人から『大人っぽい』とか『一人旅なんてなんかカッコイイ』とか概ね好意的な感想が書き込まれていた。知らない街を一人で旅する少女――そういうある種の扇動的な演出が、うちのあかるくてかわいくて、でもどこか大人びていてクールなイメージを作ってくれる。
そういう印象操作は大事だ。
この世知辛い学生生活で、一人の女の子として扱ってもらえる最低限のカーストに腰を据えるためには、自分を嘘と虚栄のドレスで着飾る事だって大事なんだ。
それなのに――
それなのにそれをせず、ただ自分が好きなように振舞って、結果としてネクラ小心ギタオタダサメガネの地位に落ち着いてしまった兄貴を、うちは軽蔑してしまう。
本当は、そこまでダメダメな奴って訳じゃないんだけどな。

隣県とはいえ、県が変わればスーパーに並んでいる商品も地域色が出てくる気がする。へーこんな魚が売ってるんだとか、こんな野菜見たことないなーとか、そういう微妙な違いを見て回るのは楽しい。写真にとってグループにアップしようと思ったけど、やめた。こういうのに興味を持つのは大人っぽいというより主婦っぽい、というかオバサンっぽい。うちのイメージには反してしまう。
「お前、なんか飲み物買うか?」ビールをカゴに入れながら兄貴が言う。
「ん」適当な受け答えをしつつ、飲料売り場からドデカミンを手に取る。普段はなんちゃらティーみたいなのを飲むように心掛けているけど、本当はこういうがっつり系B級エナジードリンク風飲料(?)が大好きだったりする。全然かわいくない。

「あ、平君?」
女の声がして、うちは反射的に声のした方向に目をやる。
そこにはけっこうかわいい部類に入るであろう黒髪の女性が立っていた。あまり化粧っ気のない薄い顔、チェックのシャツワンピにリュックを背負っていて、手には買い物カゴが握られている。
「あ、金谷さん」兄貴は一瞬驚いた表情をして、でもすぐ目じりを下げて溶けたマシュマロみたいな笑顔を見せる「買い物中?」
「うん、お母さんと一緒に。あれ? えっと、あの――」2人の様子を交互に眺めているうちの存在に気付いて、金谷さんと呼ばれた女性は怪訝な顔をする「え、か、彼女、さん?」なぜかこの人、明らかに狼狽している。
「違うよ!」兄貴がもの凄い勢いで否定する「実家の妹だよ、ほら今日大学でオープンキャンパスあるから、それに参加するために今うちに泊まってるんだ」
「妹、さん?」半信半疑な様子。
「平のどかです。兄の友人ですか?」ウチを蚊帳の外にしてお互い焦りまくっている2人を前にし、冷静で上品な自分をアピールする。
「えっと、サークルが一緒なんです」兄貴の友人の金谷さんは、年下であるうちにも敬語である。でもそういうところは好感が持てる。
「いつも兄がお世話になってます」ここで渾身の微笑み、そして約30度のお辞儀。
「あ、いえいえ、こちらこそ、平君にはいつもお世話になりっぱなしで――」金谷さんはそう言いながらぺこぺこと何度も頭を下げた。
ひとしきりぺこぺこした後、顔を上げた金谷さんは「あっ」と漏らす「お母さんが私の事を探してるみたい。じゃ、私行くね」棚の間をきょろきょろしながら歩く母親を見つけたのか、そう言うと金谷さんは足早に去っていった。
去り際にうちの顔をみて、にっこりと微笑む。
その優しげな顔が妙に魅力的で、うちも女ながらにドキッとしてしまった。

「ねー兄貴」スーパーからの帰り道、心なしか足取りが軽い兄貴の背中に声をかける。
「なんだよ」そっけない返答。まぁいつもの事だけど。
「さっきの金谷さんって、かわいい人だね」
「そ、そうか?」兄貴の顔がほころぶ。なんでお前が喜んでるんだよ。
「思いのほか、大学生活楽しんでるじゃん。お母さん、兄貴に友達が出来ないんじゃないかって心配してたよ」
「余計なお世話だ」
「いやー、よかったよかった」適当なふうを装ったけど、あながち心にもない言葉を言ってるわけじゃない。自分の心の片隅に、ほんの少しだけ兄貴の事を心配している自分がいて、なんだか気色悪かった。
でも、さっきの兄貴と金谷さんの様子を見ると、お互い友達とはまた違った感情もあるんじゃないかと勘ぐってしまう。
恋愛感情?
ないない。ダサメガネの兄貴がちょっと仲良くなっただけの女子に岡惚れしてる様子は容易に想像できるけど、あんなふうにまともでけっこうモテそうな女子が兄貴なんかをターゲットにする事などあるはずがない。
しかしこのままでは、岡惚れした兄貴がストーカー化して更に気持ち悪い存在になってしまうのではないか、そんな心配が芽生えてきた。明日帰ったら、早速お母さんに相談してみるとしよう。
でもまぁ、失恋の経験も人を大きくしてくれるって言うし、兄貴にはこれをきっかけにもっと大きく成長して欲しい。失恋を乗り越えてちょっとだけ成長した兄貴なら、きっと面倒を見てくれる女性の一人くらい見つかるでしょ。
少なくとも、まだ兄貴には恋愛なんて無理だ。
うちだってまだ彼氏が出来た事ないのに。
「おい、なに薄笑い浮かべながらこっち見てんだよ」兄貴が眉をひそめて尋ねる。
「兄貴の行く末を案じてやってるんだよ」
「お前に案じられる筋合いはねーよ」
「うるさい」なんだか笑いがこみ上げてきた。兄貴はいつまでも兄貴のままだ。こんなふうにからかうと、すぐ不機嫌になる。大学生になったって、兄貴は変わらない。
小走りで相変わらずな兄貴の背中を追い抜こうとして、蹴躓く。
バランスを崩して倒れそうになるところを必死で堪え、なんとか転倒は阻止した。手にした買い物袋に入った晩御飯のカレーの材料が、慣性の法則でぐらぐらと揺れる。
「あんまりはしゃぐなよ」呆れ顔の兄貴はため息をつく。
「ごめん」ついつい、うちは謝ってしまう。
「おい、その荷物持つから、貸せよ」兄貴が右手を差し出した「重いんだろ?」
「別に」兄貴は飲みものの入ったでっかい袋を持っている。そっちの方が重いに決まっている。
「いいから。転んで泣かれても困るし」強引に荷物をむしり取る。
「泣かないし」うちは両手に荷物を持ってさっさと先を急ぐ兄貴の背中を見た。

いつも殻にこもって、自分の足元だけを見ていた兄貴。
以前の兄貴はこんな気遣いが出来ただろうか。
先を行く背中が、さっきより大きく見えるような気がした。
それがうれしいような、さびしいような、複雑な気持ち。そしてそんな複雑な感情で兄貴を見ている今の自分がやっぱり気色悪かった。

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幕田卓馬

Author:幕田卓馬
糖、脂質、プリン体、塩分などに気を配らないといけない歳になりました…若い頃の不摂生が原因でしょうか。まだ三十路、されど三十路!
そんな男が日々の合間に小説を書いています。

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