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引き継ぎ

俺はなんだか「天元突破グレンラガン」の主人公シモンみたいな気持ちになっていた。

皆から信頼されていたアニキが戦死し、2人で担っていたロボットパイロットの役目を1人で背負う事になったシモンは「俺には出来ない」と背中を丸めて閉じこもるのだが(たしかそんな感じだったような気がする‥)、その心境がまんま今の俺である。

俺はそんなに優秀じゃない。俺はそこまで仕事に打ち込めない。俺はそこまで他人に信頼されない。俺はコミュ症で、人間恐怖症で、物覚えが悪くて、要領も悪い、ゴミクズみたいなダメ人間なんだよ!
そう叫びながら部屋に鍵をかけて、耳と目を塞いだままガタガタと震えていたい。

しかしそこで完全に閉じこもってしまうと物語は完全に終了しちゃうわけで、シモンは自分の力を信じて、っていうか「自分を信頼してくれるアニキを信じて」復活と成長を見せるのである。

そんなアニメみたいな展開は起こらないだろうけど、俺も地べたを這いずり回りながらでもこの逆境を乗り越えて成長していかねばならない。
幸い、俺が信頼する人達は、なんだかんだ言いながらも俺を信頼してくれている。
俺はコミュ症で、人間恐怖症で、物覚えが悪くて、要領も悪い奴だけど、ゴミクズみたいなダメ人間への段差はほんの少し(片足の踵くらいで)踏みとどまっているのだろう。

優秀な先輩の仕事を引き継ぐプレッシャーに打ち勝って、このホットコーヒーにミルクを垂らしたみたいな苦く円やかで温かな生活を、これからも守り続けなければならない。

まぁ、どーしたって、これからも弱音ばっか吐きまくるんだろうけどさ。

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冬の花火

白い雪を抱きながら群青の山脈は静かに眠っている。

その一片を削り取って海水に溶かしたような、透明感のある空が頭上に広がっている。

この町で、こんなにも鮮やかな青空が見られるのは、もしかすると今日で最後かもしれない。

灰色の空を見上げながら過ごすこの町の冬は、いつしか懐かしい思い出に変わっていく。
現在が過去に、今が思い出に変わる瞬間。
当たり前のように起きているその変化の一瞬を、俺は知覚出来ないまま生き続けている。
それはふと見上げた西の空が夕映えの色を湛えていたあの瞬間のように、観測者の意識から解き放たれた時を境にして移り変わっているのかもしれない。

ならばその一瞬を見逃さず目を凝らす事が出来たなら、今は今のまま残るのだろうか。
この町で過ごした9年もまた、春の残雪みたいに、触れれば感じられるこの冬の実感を伴って、いつまでも俺の記憶に留まり続けてくれるのだろうか。

そう願えども、しかしながら新しい土地での新しい生活は、嫌が応にも俺の目を過去の日々から引き剥がし、目の前に転がった数多の煩雑な問題に向けさせようとする。

「全て忘れてしまったら、なかった事と同じだな」

そんな歌詞を思い出して、俺はその言葉の残酷さを実感するのだ。

この町での日々、この瞬間の喜び、憂いの存在証明は、俺自身の拙い神経細胞の集合体によってのみ為されている。枯木の枝に張った古い蜘蛛の巣のように弱々しいこのシナプスの伝達が途切れれば、それらは存在すら消えてしまう。

不安な夜、失敗に頭を抱えた日々、達成感と共に飲み込んだ発泡酒、友人と食べたラーメン屋、寒空の下で彼女との遠距離電話、結婚、引越し、2人の生活、茹だるような暑さ、網戸から流れる焼けたコンクリートの匂い、悪阻でグッタリした妻、仕事でグッタリした俺、喧嘩と仲直り、息子の泣き声、暗い部屋で抱いた息子の温かさ、庭の桜の木、走り回る息子を眺めたベランダ、新しい車、新しい出来事、新しい命。

これらを全てを失くさないように抱えたまま、俺はもうすぐこの町を去らなければならない。

夕食を食べていると、外から花火の音が聞こえた。そえは毎年開かれているのに一度も行ったことがない、スキーの祭典の催しである事に気付く。

カーテンを開けると、遠くの山影から無数の光の柱が立ち上がり、辺りを黄色く染め、消えていく。
食卓テーブルに座る俺の膝に立ち、冬の花火に釘付けになっている息子の重さを感じながら、俺は積み重ねてきた日々の重みを改めて感じていた。

俺たち3人は、そのまま最後の花火が終わるまで、窓の外を見ていた。

この瞬間はきっと消えない。

例え視覚的な風景は薄れてしまったとしても、この瞬間に俺たちが同じものを見て感動した事は、俺たち家族を根底で繋ぐ無数の糸の一つになり、絶対に途切れる事はない。

そう確信した。



多忙な毎日の中で、感傷に浸る暇もなく俺はこの町を離れ、新しい生活に溶け込んでいくに違いない。だから今こうやって、この町への感謝を込めて、思いを文章に書き起こしている。
ありがとう。俺の9年を受け入れ、共に過ごしてくれて、本当にありがとう。



プロフィール

幕田卓馬

Author:幕田卓馬
糖、脂質、プリン体、塩分などに気を配らないといけない歳になりました…若い頃の不摂生が原因でしょうか。まだ三十路、されど三十路!
そんな男が日々の合間に小説を書いています。

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