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どんびき!~曇天大学軽音楽部弾き語り部門~22

第22話「夏合宿(その4)」

砂浜は人波の満ち潮を湛えていた。

17時の開演までもうすぐだ。
砂浜に腰を下ろした僕はメガネを外すと、首から提げたタオルで額の汗を拭った。
真夏の太陽は少しだけ首をかしげて、上目遣いに僕たちを睨んでいる。暑さは一向に衰えを見せず、人が集中した事による熱気の相乗効果で海岸一帯は今年の最高気温を記録しているんじゃないかとさえ思う。

隣ではひまりさんが、まだ誰も立っていない特設ステージを見つめていた。
髪を頭の後ろで一つに結わえて夏らしい小麦色の麦藁帽子を被り、チュニックの袖口から覗く白い二の腕を日の光から守るように、大き目のタオルを肩から羽織っている。
手に持つコカコーラの模様の紙コップは汗の雫を光らせている。
太陽へ抗議するメガホンように空へと掲げられたストローの口を、ひまりさんの口が塞いだ。僕はその一連の仕草を、太陽に目を細めるふりをしながら、ぼんやりと見つめていた。
夏の風が潮の匂いを運んでくる。
それにほんの少し、昨日の温泉のシャンプーの匂いと、香水のような甘い匂いが混じり、僕の胸の鼓動は高鳴った。

急に歓声が沸き起こり僕はステージを見る。
ステージ上には一組目のアーティストが立ち、中央のボーカルが大げさに手を振っていた。ドラムがリズムを刻み始め、そこにギターとベースが加わる。イントロから続くギターリフに合わせて、ボーカルがゆっくり歩き始めるようにメロディーを囁く。
その囁きはサビに差し掛かり一気に弾けた。マイクのコード接続部を空に掲げるようにして、体の奥底から声を張り上げるボーカル。その圧倒的な声量を後押しするかのようにエフェクターで歪ませたギターストロークが鳴り響く。

この一曲で僕たちの心は、徐々に、そして急激に現実から引き剥がされた。

現実から乖離し浮遊する僕の心は、音の波にのり空中を漂う綿帽子のようだ。

夕日へと姿を変えていく真夏の太陽に照らされて心地よい音に身をゆだねと、煩雑なしがらみは全て、音楽という強風が路上の塵のように吹き飛ばしてくれる。

皆が立ち上がり、ある曲では手を天に突き出し、ある曲では隣の誰かと肩を寄せ合い、様々な感情によって色づけられた演奏に聴き入っている。

心の色が、内側からではなく外側から、何度も何度も強引に塗り替えられて行くその感覚に、僕は目眩がするような恍惚感を覚えていた。

そして、自分の演奏がこんな風に他人の心を掴む事が出来たら――そう思った。

「ピンチ・オブ・ソルト」の演奏は最後だった。
ステージの上に立つ2人は、先ほど食事を共にした2人とは全く違って見える。音楽を人生の柱として生きている人の持つ、自分の感性に対する強い自信と誇り、それが2人の堂々とした立ち姿から滲み出ていた。
五智さんのアコースティックギターが繊細な音色を奏でる。
文子さんはその音色に寄り添うようにして歌いだす。
2人の音が指を絡め、硬く手を握り合わせている。
僕は温かい手のひらで頭を撫でられているような、そんな錯覚を覚えた。
心地よい、慈愛に満ちた歌声だった。
この心地よさがいつまでも続いて欲しいと、そう思った。
終わらないで欲しいと、そう思った。

でも、全てはいつか終わってしまう。

突然僕の心に霞が掛かった。
どんなものにも終わりが来る。それはこの心地よい音楽も、楽しい合宿も、弾き語り部門も――全てにはいずれ終わりが来てしまう。
昼間思ったその事実が再び頭を過ぎり、僕は一瞬で現実に引き戻された。

僕はもっと聴いていたい。
弾き語り部門のみんなで奏でる音楽を、いつまでも聴いていたい。
それが無理だとは分かっている。
でも、でも僕は――

しかし無慈悲にも、終わりの拍手は盛大に鳴り響いた。
ステージではピンチ・オブ・ソルトの2人がお辞儀をしている。
演奏を聞き終えた人々は、踵を返しぽつぽつとステージから離れていく。
さっきまで感じていた一体感は風に煽られた雲のように薄れ、人々の声と砂浜を踏みしめる音が不協和音を響かせている。
やっぱり終わってしまうんだ。
僕は寂寥感に身をゆだね、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。人がどんどん引けていく中、僕はその流れに逆らう小石のように突っ立っていた。

「平くん」

その時、ひまりさんの声が聞こえた。

「また、来年も来ようよ」

そして左手に温かいものを感じた。

少し汗ばんだ温かい右手が、僕の左手の指先を握っている。
誰にも気付かれないように小さな仕草で、しかし力強く握っている。
僕はひまりさんの方を見る。握られた手はその瞬間離された。そこには薄明かりの中はにかんだ笑顔を見せるいつものひまりさんがいた。
ひまりさんが目を閉じる。
「波の音がきれいだよ」
彼女をまねて僕も目をつぶった。
人々の喧騒の背後に、確かに波の音が聞こえている。
いつまでも鳴り止む事のない、自然の音楽。

「誰かの奏でる音楽が終わっても、波の音はずっとなり続けているんだね」

彼女は僕の心が読めるのだろうか。
驚愕と同時に、なんだか自分の考えが馬鹿らしくなった。
一つの音が止んだとしても、それで終わりではないはずだ。その背後で鳴り響いている別の音楽に気付くことが出来るのだから。
僕たち弾き語り部門はいずれ終わってしまうだろう。
でも、それによって新たな何かが見えてくる。
そんな簡単な事に思い至らなかった自分がなんだか恥ずかしくなり、僕はただ無言でひまりさんの言葉に深く頷いた。

「おーい、邪魔するようでなんだけど、そろそろ帰るぞー」少し離れたところから杉田先輩の声が聞こえ、僕たち2人は砂に足をとられながら4人の元へと走った。

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ノロウイルスの恐怖

会社の事務員の娘がノロウイルスに感染し、その翌日に事務員も発症した。

事務員の子供はまだ赤ちゃんだから、非常に痛ましい……。

潜伏期間が12~48時間ということで、勤務時間中にはすでに感染状態だった可能性も高く、自社製品の「ノロウイルス相当にも効果がある殺菌用アルコール製剤」をドアノブやキーボードなど事務員が触れた可能性のあるところに散布した。

事後対策をしっかりとって、手洗いも十分に行っているのだが――やっぱり恐い。

自分一人がなる分には仕方ないと諦めもつくのだが、自分経由で感染した嫁や2歳半の息子の苦しむ姿を想像すると泣きたくなる。

何とか水際で食い止めなくてはならない。

とりあえず今は、自分の体調が急変しない事を切に願うばかりだ。

どんびき!~曇天大学軽音楽部弾き語り部門~21

第21話「夏合宿(その3)」

普段朝食を食べない僕なのだけど、旅館の朝食とはなぜこれほどまでに美味しく感じるのだろうか。
塩鮭の身から骨を取り除き口に運びながら、僕は窓の外に広がる青い日本海を見た。天気は快晴。海の果てが描いた境界線と、境界線を越えて空へと手を伸ばすようにはっきりと突き出たS島の姿が、朝の澄んだ空気を物語っている。今日も暑くなりそうだ。

支度を済ませロビーに集まる。
「正方寺くーん、荷物が重いよー」甘えた声を出す清里珠美さん。
「ほら、俺が持ってやるから、貸してみ」
「え、あ、え?」予期せぬ正方寺の反応に唖然とする清里さん。普段の正方寺なら『そんなに荷物持ってくるからだろー』と悪態をつくところなのだが、どういう風の吹き回しなのだろうか「あ、やっぱりいいよ、自分で持てるし」と困惑する清里さんがなんだか微笑ましい。

今日はこれから街の料理屋で待ち合わせて、「アピンチ・オブ・ソルト」の五智夫妻に色々と話を聞く予定だった。
海沿いの国道を30分ほど走ると、J市の中心街が見えてきた。大型ショッピングセンターを中心に独立店舗のチェーン店が群立していて、典型的な開発途中の地方都市といった様相だ。そこから内陸側にしばらく走ると、今度は雁木造の古い町並みが見えてくる。おそらく以前はこちらが市の中心部だったのだろう。
杉田先輩のミニバンは細い道を抜け、ある料理屋の駐車場で停まった。
店には既に話が通っているらしく、2階の座敷に案内された。もうすぐ昼食時ということもあり、1階の座敷席には数人の先客がいた。メニューを見ると、どうやら寿司をメインとした和食のお店らしい。思いのほかお値段は手頃だった。
「五智先輩、先輩のお兄さん夫婦って、どんな方たちなんですか?」ひまりさんが尋ねる。
「兄貴は、ギターが上手い」
「車で曲聴きましたけど、すっごく上手かったですよね。奥さんのボーカルも声が澄んでました」
「義姉さんは、なんというか、大和撫子といった雰囲気だ」
「どんな人なんだろうなぁ」
そこで階段を上る足音が聞こえ、僕らは一斉に階段のほうを見る。

「よう、お待たせ」襖が開き、五智先輩に口ひげを生やしたような男性がのっそりと顔を出し「弾き語り部門の皆さん、いつも哲夫がお世話になってます。兄の和夫です」そう言って頭を下げた。
「義姉の文子です」五智さんの後ろには、白くて線の細い女性が立っていた。長い黒髪を真ん中分けにしていて、白い額や頬に赤い唇が際立つ。その凛とした立ち姿はこの店の純和風な内装と妙にマッチしていた「てっちゃん、元気にしてた?」
後に聞いたことだけど、五智兄弟と文子さんの三人は幼馴染のような関係だったらしい。
文子さんにそう尋ねられて、五智先輩は照れくさそうに「まあまあだ」と答えた。

今日はお忙しいところお時間を割いていただきありがとうございます俺たち弾き語り部門も実際にプロで活躍しているミュージシャンの方にお話を伺えるというのは大変な僥倖でありぜひこの機会に技術や音楽論についてご教授いただきたいうんたらかんたら――長々と杉田先輩が言う。

「あの、失礼ですけど――」料理を運んできたアルバイトらしき女性が、五智さんと文子さんの顔を交互に見比べている「もしかして、アピンチ・オブ・ソルトさんですか?」
「そうだよ」五智さんがにっこりと笑う。
「やっぱり! わ、わ、わたし、わたしファンなんです! CD全部もってます! あの、これ、サインしてください!」そう言って空の伝票とボールペンを差し出す。
二人は嫌がる様子もなくそこにサインをした。
「ありがとうございます! 一生大事にします! 今夜のフェス、絶対行きますから! 頑張ってください!」浮き足立った様子で部屋を出て行くアルバイトの女性。
目の前の2人がプロのミュージシャンである事を改めて実感する。
「数少ないファンだから、大事にしないとね」五智さんは困ったような笑い顔で頬をぽりぽり掻いた。

そんな感じで食事を摘まみながら質問コーナーが開始された。
特に熱心に話を聞いていたのは正方寺だった。ボーカル一本の正方寺にとって、同じボーカリストのプロである文子さんから聞ける話の数々は興味深いものなのだろう。弾き語り部門の先輩は主にギターがメインであって、歌についてのレクチャーが出来るわけではない。だから正方寺は(ついでに僕も)本や雑誌で見聞きした知識を元に自己流で技術を磨いてきたのだが、やっぱりその道のプロの口から語られる言葉に勝るものはない。

またギターの話つながりで、五智先輩の小さい頃にも話題が広がった。
小さい頃の五智先輩は今とは違って泣き虫で、いつも年上の五智さんや文子さんの後ろをついて回っていたらしい。中学になり五智さんがギターを始めると、負けじと五智先輩もギターを始める。もともと歌が好きだった文子さんの伴奏をどちらが務めるか――そんな事を競い合う、仲がいいんだか悪いんだかわからない兄弟だったらしい。
「あの頃のてっちゃん、かわいかったのよ」ほんわかした視線を五智先輩に向け微笑んでいる文子さん。
「そんな昔の事どうだっていいだろ」その視線から目を逸らしながら、五智先輩は湯気の立つお茶を口に含むと熱そう眉根を寄せた。
文子さんの昔話は続く。
高校を卒業する頃には五智先輩のギター技術は相当なものになっていた。
しかし高校卒業と共に上京しプロのミュージシャンを目指した五智さんとは異なり、五智先輩は普通に進学する道を選んだ。
「俺と一緒に文子も上京して、一緒にプロを目指す事になったから――」五智さんが文子さんの話に注釈を加える「俺たち兄弟の争いは、一応俺の勝利という形で終結したわけだ」
「別に争ってなどないし、負けたとも思っていない」面倒臭そうに反論する五智先輩の表情には、しかしほんの少しの悔しさが覗いているように感じた。
たった小1時間の話しの中だけで、この三人の関係性を見抜けるほど僕は観察力に優れてはいない。
でも五智さんが文子さんと一緒にプロとして成功していなければ、五智先輩の2人に対する感情は変わっていたのではないかと思う。
五智さんは文子さんの伴奏というポジションを得た。この兄弟にとってのそのポジションには、文子さんの歌声を全国に届けなければいけないという使命が付随していたのだろう。そして五智さんはその使命を全うし、プロとして全国を飛び回る生活を行っている。
確かに悔しいけれども、そんな兄の事が、どこか誇らしい。
僕には男兄弟がいないから、こういう男同士の矜持のぶつかり合いや、その果てに生れるお互いを認め合う気持ち――そんな関係性に少し憧れを抱いた。
やっぱり五智先輩はかっこいい。

「君たちの音楽は充実しているかい?」五智さんは問う「このまま就職して社会に出て行く人、音楽を続けてプロの道を目指していく人、これから先の進路は様々だと思う。しかし就職して社会に出た場合、音楽を続けていくのは難しい事なのかもしれない。俺の友人で音楽をやっていた人間も、社会に出てからめっきりギターを弾かなくなったといっていた。日々の生活に追われて、そんな余裕を持つことも出来ず、やがてギターは埃をかぶったインテリアに成り下がってしまうらしい。確かに、現実で押し寄せてくる問題の数々は娯楽や夢なんかよりも明らかに強力で、津波みたいにその人の感情ごと根こそぎ押し流してしまう事がある。でもそんな時、心の支えになってくれるのは、今君たちが生きているこの時間だ。同じ目標を志すものが集まり6人で同じ道を歩いている、人生においてはほんの一瞬にも満たないこの時間だ。この時間に染み込んだ努力や、喜びが、いずれギターに被るであろう『埃』を『誇り』へと変えてくれる。今を充実させよう。未来のために、今の音楽を充実させていこう」
五智さんは「ちょっと説教くさかったかな」と言って笑った。
「うちの弾き語り部は基本的にだらだらしてますけど」杉田先輩が応える「でもまぁ、基本的にやる時はやるってスタンスでやってますぜ」
「杉田先輩は、もう少しやる時を増やした方がいいのでは……」と正方寺。
「そ、それを言うなよほーじくん」気の抜けた杉田先輩の言葉に、一同は笑いに包まれた。

今のこの時間は無限ではない。
笑い声の中で、僕はそんなことを考えていた。
僕達はいずればらばらになり、それぞれの道を歩く事になる。
まず先輩2人は、今年の秋の学祭発表を機に部活を引退する事になるだろう。
4人になった弾き語り部門も、来年の今頃は部活の引退が頭を過ぎり、それと同時に押し寄せてくる卒業研究や就職活動の波に溺れそうになっているかもしれない。
僕にとっての弾き語り部門は、いつか終わってしまう。
でも今は、それを現実として受け入れるような気持ちにどうしてもなれない。
この時間が有限であるとは、どうしても思えない。
夏は終わらず、次に来る秋や、冬も、きっといつまでも終わらないような錯覚に陥るのだろう。
なんの覚悟も出来ないまま、時間に押し流されてしまう事。
それがなんだか恐かった。

セミの声が聞こえる。
彼らは1週間という限りある生を知り、受け入れた上で歌っているのだろうか。
もしそうだとしたら、そんな彼らの歌声は、何の覚悟もない僕の歌声よりも明らかに力強く響くだろう。

ユキヤバイ

24日(日)、F県N市の実家からN県J市のアパートまでの道のりが、雪の影響でえらい事になっていた。
一応豪雪県豪雪市に住んでいるわけで、雪の量自体はさほど驚くものではないのだが、そんな日に車での長距離移動を強行したためしは当然なく、なんというかまぁいい経験になったような気がする。
記録も兼ねて、どんなふうにヤバかったのか以下に記す。

13時:N市は時折晴れ間も見えるそこそこのいい天気。アパートまでの高速道路はチェーン規制があるものの、この時期はいつもの事だし問題なし。昼飯食って出発。

14時:あれ、途中の区間、雪で通行止めになってね?

14時30分:県境の山辺りで雪が酷いことになってきた。道路、ガードレール、中央分離帯、全てが真っ白で道がどこか分からない。高速下りたところで除雪車作業中、数分待たされる。除雪前の雪の厚みが1m近くあるんじゃないか? 本当に大丈夫なんかこれ。

15時:ナビを頼りに下道をひた走る。雪で道路が凸凹、前の車がケツを振っている。しかし今思うと、ここはまだ楽な方だった……。

16時30分:ツルツルピカピカの圧雪を慎重に走りきり、県を南北に横断する国道に乗る。この道を南下していけばアパートにたどり着ける。当然のごとく国道は渋滞中。歩いた方が早いんじゃね? くらいのスピードで亀の行進。雪はまだ降り続き視界を覆う。そして徐々に恐怖が心を侵食して行く「夜になったら、前見えないんじゃね?」

17時30分:予想は的中する。日が落ちて視界は狭まり、絶え間なく降り続ける雪が霧のようにヘッドライトの光を反射する。その光すら、着雪によって徐々に照度が落ちていく。ワイパーも雪が入り込んで上手くかけなくなってきた(新車なので雪用ワイパーをまだ購入していなかった)。更に最悪なのはこのタイミングで国道が田んぼ地帯に突入した事。遮るものがない横風が地面の雪を舞い上げ、その瞬間は完全に視界がゼロになる。ハンドルを握る手に力が入る。こわい。

18時30分:ライトとワイパーの除雪のために途中で何度も止まりながら、何とか行程の半分を過ぎる。晩飯はコンビニで済ませたのだが、駐車しているほんの数分の間にフロントガラスは完全に雪で覆われてしまう。「もうやだ」という泣き言が自分の口からこぼれ始める。これから、この行程の最大の難所と思われる「山越え」に入る。しかし緊張感の継続によって自分のMPは黄色表示になっていて、コンディションは最悪だ。しかし時間をとって休んでしまうと、より路面状況が悪化する可能性がある。日付が変わるまでには帰りたい。

19時:山越えに突入する。前に乗っていたパジェロイオはこういう雪の山道なんかだと非常に心強かったのだが、今乗っているのはいたって普通の乗用車WISH。一応4WDではあるのだが雪道の登坂性能はいかがなものか? 途中で止まって立ち往生したらアウトだ。頼む頑張ってくれ、と祈るような気持ちでアクセルを踏んだ。途中路肩に停車している車を何台も見かける。道路を遮るように立ち往生している大型トラックの隙間を慎重に走り抜け、エンジンブレーキを適度にかけながら坂を上ったり下りたりする。雪が度々視界を遮るため、前を走る車のテールライトを目印に走った。一緒に山を越えている車たちに一種の運命共同体のような親近感を感じてきた。みんな、頑張ろう!

20時:なんとか山を越えたが、ここからまた渋滞。除雪車が前を走っていたり、通行車両の集中や、道を塞いで立ち往生しているトラックの影響などで全く進まなくなる。運転の緊張感は多少軽減されたものの、動かないイライラが募り始める。今日中にアパートに着くのだろうか。

21時00分:山越えで精神力をすり減らし、体力気力共に限界に対していたが、脳は妙な興奮状態が持続していて眠気は全くない。渋滞は遅々として進まず、気晴らしにテレビを見始める。行列の出来る法律相談所(だっけ?)であぶない刑事出演人がゲスト出演していて、なんかあぶない刑事を見てみたくなった。今度テレビシリーズのDVDでも借りてみようかな。

22時30分:渋滞を抜け、市内に入る。あとは通常であれば30分程度の道のりだ(J市は合併で妙に広い)。市内に入ったことによるリラックス感で、妻との会話が妙に弾む。テレビではおしゃれイズムにDAIGOさんがゲスト出演していた。妻である北川景子さんと某バラエティー番組で再会した回をうちの妻が観ていたらしいのだが「北川景子すごく楽しそうにしてたのを覚えてる。すごく気が合ってるっていうか」と言っていて、女の勘ってすげーと思った。どうも、その時の北川景子さんの姿が昔の自分に重なったらしい。

23時30分:無事帰宅。が、アパートの駐車場が雪で埋まっていてほんの少し除雪する。

以上、今回の長い道のりを記録として文章にまとめてみた。
今回の件で得られた事は3つ!

1.今の車でも雪道走行は何とかなる!
2.雪用ワイパーはケチらず買ったほうが吉!
3.北川景子さんのくだりのとき、普段冷めてる妻がちょっと惚気てくれた!

それと、改めて雪の恐ろしさを実感した。

雪道運転、みんな気をつけよう!

どんびき!~曇天大学軽音楽部弾き語り部門~⑳

第20話「夏合宿(その2)」

「ひまりがピアノを辞めたのは、あたしのせいかもしれないんだ」
 潮と青草の匂いを含んだ夜風を浴びて、浴衣の清里さんは突然現れては通り過ぎて行く人魂のような車のヘッドライトをぼんやり眺めながら、言った。

 近所の売店で地酒を買って帰ると、夕食まで微妙に時間が余ってしまった。
「飯の前に温泉入ってこようぜ」杉田の先輩の提案に俺――正方寺陽介は頷いた。五智先輩や平も引き連れて温泉に向かう。女子2人もこのタイミングで入るらしく、俺たち6人は風呂場の前で二手に分かれた。
 温泉はいい湯加減だった。露天風呂からは日本海が一望でき、沖の方に見える漁船やタンカーをぼんやりと眺めながら、日ごろの疲れをお湯の中へと溶き出した。平がさっさと音をあげて退散し、俺と過ぎた先輩もその数分後に風呂から出る。五智先輩はなんかの修行でもしているのか、湯船に浸かったまま微動だにしない。
 風呂上りのビールを飲んでいると浴衣を着た女子2人が部屋にやってくる。
『女ってさ、浴衣の下に何も着ないらしいぞ』杉田先輩が風呂場で言っていた与太話を信じているのか、平は真っ赤な顔をしながら伏し目がちに金谷さんの顔と胸元をチラチラと見ていた。こういう事に関してはほんとに素直で分かりやすいやつなだ、と俺は笑いを堪えるのに必死だった。
 夕食は宴会場だった。俺たち以外にも十数組の宿泊客が集まっている。お膳には地元日本海の海の幸をふんだんに使用しているであろう数々の海鮮料理が並ぶ。杉田先輩の『えー、とりあえず腹減ったんで食いましょう、乾杯』という音頭も適当に聞き流し、俺たちは豪勢な食事に舌鼓を打った。
 平はまだ杉田先輩の嘘を信じているのか、遠くの料理に箸を伸ばす金谷さんの胸元に視線を送り、ぶんぶんと首を振って目を逸らしている。『いやいやだめだそんなことしちゃ』という心の声が聞こえるようだ。見ていて笑えて来る。
「そういやひまちゃんさ」ある程度酒が入ったところで杉田先輩が金谷さんに尋ねる「なんでピアノ辞めちゃったんだ? 上手いのにもったいない」
「べつに辞めたわけじゃないですよ、少しお休みしてるだけです」
「ふーん、音楽性の変化とか」
「まあ、そういう感じですかね」あはは、と金谷さんは笑い、杉田先輩は「なるほど」と頷くだけでそれ以上この話題を広げようとはしなかった。
 杉田先輩がちらりと清里さんを見る。
それに釣られて俺も目線を向けると、彼女はビールのグラスを握りながら俯いていた。
しかし直ぐに顔を上げ「ところで聞いてくださいよ! さっき海で平が水着の女子高生に鼻の下を伸ばしてたんですよー」
「伸ばしてないよ!」
 雨雲を突風で吹き消し強引に笑顔を見せる。しかし俺は清里さんが見せた一瞬の曇り空に、なんとなく引っ掛かるものを感じていた。

「正方寺くん、ちょっといいかな」 
夕食後、清里さんが俺を誘った。ぶっちゃけ普段の言動から考えると『二人っきりでいちゃいちゃたい』って目的なんだろうし、いつも通り『じゃあ平や金谷さんもいこうぜ』って事になるはずだった。
 しかしさっきの清里さんの表情が俺の中でしこりとなり、普段の受け流しの言葉が上手く出てこなかった。いつもとどこか違う雰囲気を清里さんに感じていた。

「ひまりがピアノを辞めたのは、あたしのせいかもしれないんだ」
 夜21時の県道は車通りが少なく、数分感覚で辺りを照らすヘッドライトが過ぎ去ればあとはぼんやりとした外灯の明かりのみになる。
 旅館の側に据えられたベンチに腰掛けて、俺は彼女の横顔を見た。日の光の下では派手な茶色い髪も、月の光の下では暗闇に溶ける黒に見える。その雰囲気の違いに混乱し、俺はかける言葉を選び出せずにいた。
「急にこんなこと言ってごめん。ただ、正方寺くんに聞いて欲しかっただけだから」俺の沈黙を拒否の意ととらえたのか、そそくさと立ち上がろうとする清里さん。
「いや、ちがうんだ。ちょっとびっくりしただけで」立ち去ろうとする清里さんを引き止める。髪の色とか、そういう容姿だけではなく、今の彼女は普段の彼女とどこか違っていた。いや、これが本当の彼女なのかもしれない。笑顔で横暴な仮面の裏に潜んでいた本当の清里珠美「清里さんのせいでやめたって、どういうことなんだ?」
 清里さんはぽつぽつと語りだした。
 普段と違う彼女の顔を覗き見ることにほんの少し罪悪を感じて、俺は遠くに見える外灯に視線を向けた。
 明かりに誘われた大きな蛾がくるくると回っている。
 
清里さんは金谷さんに憧れてピアノを始めた。しかしすぐにピアノ自体の楽しさにのめりこんでいった。一生懸命努力して、その結果自分の想い描いた音楽を奏でられた時の喜び――それがピアノを弾く動機であり、やりがいだった。
成長するにつれ課題となる曲は難しくなっていった。必要とされる技術も増えていった。しかしそれでも清里さんは必死で練習し、それを乗り越えてきた。
清里さんと金谷さんは2人で競い合いながらピアノを習得していった。
しかし高校にあがる頃、清里さんは気づいてしまった。
自分が必死に努力して習得している技術を、金谷さんは大した苦労もせずに習得しているということ。それ以上の難解な曲に取り組み、自分の遥か先を歩いているということ。
才能という言葉は努力しないものの逃げになるかもしれない。
でも清里さんは感じずにはいられたかった。
圧倒的な才能の差。
努力で乗り越えた先には、常に決して超える事の出来ない壁がある。ピアノを弾く喜びは、苦しみに変わりつつあった。
その頃2人の間ではピアノの連弾がテーマとなっていた。同じくらいの年頃からピアノを弾き始めた仲良しの二人組みに対し、ピアノ教室の先生が良かれと思い薦めたテーマだった。金谷さんは当然喜んだ。清里さんと2人で音楽を奏でられる事を心底楽しんでいるようだった。しかし清里さんにとってそれは喜びだけではない。才能の差が歴然な金谷さんについていくために、清里さんは必死で努力した。しかし演奏でミスをするのはいつも清里さんだった。金谷さんは「気にしないで」といつも通り笑う。しかし清里さんは自分の限界を感じていた。
高校三年の頃、大学受験を理由に清里さんはピアノ教室を辞めた。
日常生活で仲良しである事に変わりはない。二人はお互いを親友だと思っている。ただ唯一、ピアノという共通項だけが二人の間から欠損した。
『また2人で、演奏したいね』ある日、金谷さんがそう言ったことがある。
『むりむり、あたしはもうひまりにはついていけない。あたしは才能ないから』努めて笑顔で言ったつもりだった。卑屈さを感じさせない口調のつもりだった。しかし金谷さんはその一言で悟ったようだった。それ以降、金谷さんからピアノの連弾の誘いはない。

「あたし大学に入ったら変わろうと思ったんだ。だから髪も染めて、ちょっと派手目なファッションにして、でも中身はちっとも変わっていない。卑屈なままだ」

 そんな時だった。
 金谷さんの祖父が亡くなり、金谷さんは形見のギターを貰い受けた。
そして金谷さんは言い放つ。
『私、ピアノをやめてギターを弾く』
 
 後から知った事だが、クラシック一筋だった金谷さんはその頃から『ピアノ』と『ギター』で演奏するアーティストを色々と調べていたらしい。そしてたどり着いたのが今流行のデュオ『にゃこ禅』だった。
 また2人で演奏したい、それが金谷さんの望み。
 自分のピアノが親友の負担になっているのなら、そんなものは捨ててしまおう。
 ただ自分は、また親友と一緒に音楽を奏でたいだけだ。

「ひまりはそういうところがあるんだよね。自己犠牲というかなんというか。でもその反面わかってないんだよ。そんな事で今まで頑張っていたピアノ辞められたら、あたしがどんな気持ちになるか。弾きたくもないギターであたしに合わせてくれているあの子を見てると、あたしは自分が情けなくて――」
 ピアノを辞めたのは自分のせいかもしれない、その言葉はそういう意味だったのかと俺は納得する。しかし、何か引っ掛かる。多分、清里さんだって金谷さんのことをわかっていない。
「弾きたくもないギター? 俺にはそうは見えないけど」
 清里さんは俯いていた顔を上げた。子供のような黒い髪が頬を流れる。
「平が言ってたよ。『ギターを弾いてる金谷さんは本当に楽しそうだ。特に清里さんと合わせてるときなんか、幸せそうでこっちも幸せになる』って」
「でも」
「いや、清里さんも知ってるっしょ。最近の平がどんだけ金谷さんばかり見てるか」
「そりゃまぁ、あんだけ露骨だったら誰だって分かるよ。分かってないのはひまりと本人くらいだよ」
「だろ? そんだけ金谷さんオタクの平がそう言ってるんだから、金谷さんが楽しんでギターを弾いてるのは間違いないんだよ」
「そうなのかな」
「それよりも大事なのは清里さんの気持ちだろ。清里さんは金谷さんとあわせてどうなの? つまらないの? 俺は平と演奏してて楽しいよ。すっげー楽しい」
清里さんは少し考え「あたしも、楽しい、かも」
「ならそれでいいじゃん。清里さんが落ち込んだり、勝手に推測してうだうだ悩む必要なし。今現在2人は楽しい、それで終了」
「そう、なのかな」
 清里さんはイマイチ釈然としない様子だったが、さっきまでの暗い表情はどこかえ消えていた。
 顔を上げると星が見えた。
 どこか落ち着く光だ。
 海や星を前にすると、自分の悩みのちっぽけさを感じさせられるとよく言う。確かにこの夏の星空は、隣に座る女子の悩みを小さな星屑の一つに変えてしまいそうな気がする。 
隣を見ると、清里さんもまた夜空を眺めていた。
彼女の目に星が映っている。
「正方寺くん」しばらくして、夜空から奪った二つの星をこちらに向けた彼女は、照れくさそうに言った「ありがとう」

 部屋に戻ると杉田先輩が近づいてきて耳打ちする「何してきた? もしや青――」
「違いますよ」俺はかぶりを振る「ちょっと相談にのってて」
「相談にのって、そのままのってしまったと」ニヤニヤ笑いながら杉田先輩がからかう。
「え、うそ、正法寺、そうなの?」動揺を隠せない平。
「先を越されてしまったね、平ちゃん」
「そんな、まさか、うそ、そんな」ガクガク震える平。
「だから違うって言ってるじゃないっすか」俺は飽きれて溜息を吐き「でもまぁ、意外な一面が見れたっていうか、今まで言い寄ってきた女子とはなんか違うのかなっていうか――」そう呟いて自分の心境の変化に驚いた。
 俺は女子が苦手だ。
 俺の容姿だけにとらわれて、容姿だけを着飾って近づいてくる女子が苦手だ。
 でもさっきの清里さんは、そんなやつらとは違い自分の内面を見せてくれた。
 
他の女子とは違うのかな――そんなふうに考えるようになっていた。


どんびき!~曇天大学軽音楽部弾き語り部門~⑲

第19話「夏合宿(その1)」

杉田先輩の運転するミニバンが高速道路のトンネルを抜けると、眼前に青く輝く日本海が広がった。
空の青と海の青の境目を波の白が縁取っている。風は少し強く、少しだけ開けた2列目座席の窓から排気ガスに混じった海の匂いを運んでくる。隣に座る正方寺が童謡の「海」を口ずさみ、僕もその歌声に自分の声を合わせ遠く広がる日本海へ向けて響かせた。

僕達は「夏合宿」と称しN県J市に向かっていた。
合宿の目的はJ市の海岸で行われる「夕日の海野外フェス」というイベントの鑑賞だ。夕日の海野外フェスでは様々なジャンルのミュージシャンたちが、夕日の沈む日本海をバックに音楽を響かせる。テレビで顔を見るようなメジャーどころが集まるわけではないけれど、インディーズを中心とした「知る人ぞ知る」タイプのミュージシャンが数多く参加する。
そしてそのミュージシャンの中に、我らが五智先輩のお兄さんとその奥さんで結成されたアコースティックバンド「アピンチ・オブ・ソルト」が参加するとあっては、観に行かないわけにはいかない。
というわけで僕たち6人は2泊3日の夏合宿に繰り出した。
今日はJ市の温泉に宿泊し、翌日は五智先輩のお兄さんに色々話を聞いた後、夜遅くまで野外フェスを楽しみ、ふらふらの身体で岐路に着く、と言うのが今回の大まかな予定らしい。

野外フェスは確かに楽しみだ。しかし僕の胸の高鳴りには別の鼓動が連動していた。
「うみー! うみだー!」とはしゃぐ珠美さん。
「きれいだねー」そう言って目を細めるひまりさん。
僕はそんなひまりさんの横顔を見つめながら、別の鼓動が更に高まっていくのを感じていた。これから2日間はひまりさんと常に一緒――そんなことを考えてついついにやけてしまう自分がものすごく気持ち悪いって事は自覚している。
『平、お前ひまりを襲うんじゃねーぞ。あたしは正法寺くんを襲うけど』
『おい、俺は襲われるのかよ!』
『あはは。でもみんなで一緒にお泊りするのってなんかドキドキするね』
昨日そんなやりとりがあった。
もちろん男女の部屋は別だろうけど、『一緒にお泊り』『ドキドキするね』そのひまりさんの言葉が頭から離れない。
たぶん僕は病気だ。
しかも、かなり重症の。

車は海沿いの温泉宿に停まった。
部屋に荷物を置くと杉田先輩は堅あげポテトとビールを取り出し、五智先輩はギター雑誌を広げた。旅行に来てもこの二人の行動は相変わらずで、僕は苦笑いを浮かべた。
「ちょっと海を見にいこうよ」隣の女部屋から珠美さんとひまりさんが登場。
「そうしようか」僕と正方寺は立ち上がる。
「あ、地酒売ってたら買ってきて」杉田先輩からの依頼に僕は「りょーかいです」と答えた。

宿の自動ドアが開くと夏の音色が流れ込んでくる。
セミの鳴き声のリフレインと波の音のベースラインにのって、夏休みではしゃぐ近所の小学生や旅行に来た若いカップルのはしゃぐ声が聴こえる。海辺の温泉街は夏の日差しのスポットライトを全身に受け、自身が主役である唯一無二のステージを謳歌している。
セメントの防波堤を越えると砂浜が広がっていた。
水着を着た近所の高校生くらいの集団が、押し寄せる波を軽快に飛び越えながらビニールのボールを打ち合っている。女の子の打ったボールが沖の方へと飛んでいき、男の子がクロールでそれを取りに急ぐ。ボールを掴んだところで女の子達から歓声が上がった。
「水着もってくりゃよかったなー」珠美さんがぼやく。
「でも、海で水着になるのってなんか恥ずかしいよね」とひまりさん。
「正方寺くん、あの高校生よりもあたしの方が胸大きいよ」
「いや、そんなつもりで見てたわけじゃねーよ」焦ってかぶりを振る正方寺。
「僕もそんなつもりで見てたやけじゃないからね」主にひまりさんに対して言い訳する僕「ただ楽しそうだなーと思って」
「いや、二人とも鼻の下が伸びてたし」珠美さんがにやりと笑う。
更なる言い訳を重ねようとした時「あ、島が見える」というひまりさんの唐突な言葉で僕らの視線は再び海へと向けられた。
はるか沖の方に白く霞がかった島が見える。
「あれがS島かな?」ひまりさんが誰にともなく尋ねる。
「うん、多分そうだと思う」僕は心もとない知識で自信のない返答をする。
僕たち4人はしばらくその島を眺めていた。
波の音が徐々に大きくなっていく。
白い光を反射しながら波が青い舞台の上で踊っている。
時々吹く潮風は優しかった。
こめかみから汗の粒とともに滴る不快な熱を、潮風は自然な仕草で奪い去っていく。
僕は自分の体が霧散し、様々な生命の体温や、喜びや、活力が濃縮されたこの眩しい夏の空気の中に溶け込んでいく、そんな気がした。

「――そろそろ、地酒を探しに行こうか」海を見たまま、正方寺が呟く。
「そうだね」僕も海から目を離さずに答えた。

太陽はまだ退場する素振りも見せず、島の上空で悠然と輝いている。

遠くから

年始に地元の友人達に会う。

だらだらと無為に過ごす時間の中で、若き日の贅沢な時の刻み方を思い出させてくれた友人達。

酒を飲み交わし語り合いながら、現在の自分を見つめ直しこれからの自分について考えるきっかけを与えてくれた友人達。

様々な人との関わりが自分の過去、現在、未来を形作って行くんだなと改めて感じた。

遠く離れているからこそ、見えるものもある。

片道300キロの距離から眺めなければ全体像を見渡せないほど、それは果てしなく大きい。

眉間に皺を寄せながら「それ」の細部を凝視する事が重要と考える人達も当然いるだろうし、自分はそれを否定するわけではない。

ただ今の年齢、今の環境、今の心境の自分にとっては、この距離から眺める「それ」の方が明らかに美しく輝いて見える。

価値観は常に変化して行くものだから、数年後に環境の変わった自分はまた別のことを言っているかもしれない。

しかし今この瞬間の自分は、「今度の休みは実家に帰る」と言うと「じゃあ折角だから集まろう」と返してくれる人がいることに心から感謝している。

きっとこれは遠く離れているからこその感情だと思う。

その感謝の気持ちを大事にしていきたい。

2016年

年が明けました。

2015年は色々な事があり、2016年も色々な事があるでしょう。

今は嫁の実家から自分の実家に向かう新幹線の車内なもんで、詳しくはまた後ほど書くとして…

二人の旧友と今年も色々とやっていきたいなと考えています。

そんで今年こは、自分で納得のいく長編を書きたい!

まぁ、そん感じで、

今年もよろしくお願いします。
プロフィール

幕田卓馬

Author:幕田卓馬
糖、脂質、プリン体、塩分などに気を配らないといけない歳になりました…若い頃の不摂生が原因でしょうか。まだ三十路、されど三十路!
そんな男が日々の合間に小説を書いています。

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